はじめに

今回の「酒蔵へ行こう」は福島県会津若松市に居を構え、「會津宮泉」や「冩樂」の醸造元としても有名な宮泉銘醸さんにお邪魔して参りました。

宮泉銘醸が居を構える通りからは、福島でも屈指の観光スポットである「若松城」(鶴ヶ城)を見ることが出来、非常に風光明媚なところです。

酒造見学は受け付けていないそうですが、非常にキレイな建物なので会津観光の際は立ち寄ってみるといいでしょう。

宮泉銘醸の外観

そんな訳で、今回は「宮泉銘醸」の宮森大和さんに酒蔵の中を案内していただきました。

宮泉銘醸の酒造り

全部で7つある水のタンク

これらのタンクは全部で七つあり、その全てが1日の酒造りでなくなってしまうとのこと。酒造りにおいて水はとても重要で、宮森氏の話によれば「酒造りは水作りからはじまる」とのことでした。

蔵の中を清潔に保つための掃除に、洗米、浸漬(米を水に漬けること)等、酒造りにおいて水が必要なシーンは枚挙に暇がありません。

宮泉銘醸では酒造りに使う水には、フィルターを8本も使用し、徹底して管理しているそうです。

蔵内で使用する水全てに使用されるフィルター

これらの水は酒造りだけでなく、使用した道具の洗浄から、蔵を清潔に管理するためのあらゆるものに使用されます。そのためか、とにかく宮泉銘醸はキレイで清潔な印象でした。酒蔵には主に、工場系の酒蔵と、伝統系の酒蔵の2種類があるのですが、宮泉銘醸は伝統系の酒蔵でした。そして、伝統系の酒蔵で筆者が訪れたことのある酒蔵の中では、圧倒的に清潔だったのがこの宮泉銘醸でした。

「酒造りで一番大切にしていることとか、うちの酒造りの特徴とか、よく聞かれる質問なんですけど、うちに特徴があるとすれば清掃なんですよね。お酒は飲み食いするものですから、やはり清潔なところで造らないと」

もちろん、お酒造りを行っている際はどこの酒蔵でも常に清潔にしているものですが、酒造りの期間を過ぎても、常に清潔にしている酒蔵はそうありません。

まして、宮泉銘醸の酒造りのスペース全てには冷暖房が完備されており、四季醸造も可能な酒蔵ですが(四季醸造とは一年中お酒を造り続けること)、宮泉銘醸では徹底して酒造りの機器のメンテンナンスを行うため、三季醸造で酒造りを行っているといいます。徹底した職人たちによる衛生管理によって、「會津宮泉」や「冩樂」が造られているのです。

現社長と共に働く小学校からの幼馴染の山口氏

宮森氏は、「若い人が職人としての自覚を持って、職人のカッコよさみたいものを実感しながら働ける環境を、社長(案内してくれた宮森氏の兄)は作りたかったんだと思います。それに日本の文化の中で日本酒を造るわけですから、日本らしさってやっぱり必要だと思うんですよね」という。

宮泉銘醸の酒造りはとにかく丁寧の一言に尽きるのです。

「職人による丁寧な酒造り」というと、非常によく耳にする内容になってしまうのですが、宮泉銘醸ほど丁寧に酒造りを行う酒蔵はそうないでしょう。

浸漬させた酒米を運ぶ

浸漬させた酒米が吸った水の量を計る

一つ一つの仕事を丁寧にキレイに清潔に。考えてみればそれは基本的なことですが、その基本的なことを宮泉銘醸はとても大切にしているのでした。

「うちは若い人が多いんですけど、殆どの人が未経験で初めて酒造りをするんです。ただうちは大吟醸レベルの造り方で全ての酒を造ります。だから若いメンバーは原料を大事にする丁寧な酒造りのやり方しか知らないんですよ。」

蔵内で仕事をしている蔵人の中では最年少の23歳。にもかかわらず、宮泉銘醸で働きだして7年目とのこと。10代の頃から働いていたため、今や麹室の中でも仕事を任されているそう。通常の酒蔵ですと、麹室の中での仕事は目上のベテランの蔵人が行っているイメージですが、ここ宮泉銘醸では若い蔵人が行っています。まさに、職人といった仕事ぶり。

「今の若い人は、こだわりだすと凄くこだわりますよ。それに、酒造りはこだわりが味になって帰ってくるでしょう?だから、それがすごく楽しいみたいなんですよ」

確かに、宮泉銘醸には若い蔵人が多く、その蔵人たちがイキイキと仕事をしている様子が非常に印象的でした。

冩樂と會津宮泉

宮泉銘醸の酒造りを一言で表せば「丁寧」なという言葉がぴったりと合致します。では、「どんな味のお酒を理想として酒造りをしているのか?」そうお聞きしたところ、
「仲間と飲んで、皆が美味しいと思えるお酒」とお答をいただきました。つまり、誰もが飲んで美味しいと思えるお酒ということなのでしょう。

続いて、オススメのお酒についてお尋ねしたところ、

「全部オススメですけど」そう前置きした上で、「「冩樂」はいわばうちの定番商品なんですよ。だからというわけではないのですが、「會津宮泉」の方が、プロトタイプというか、色々な試みをためしてはいるお酒ですね」
とのこと。どちらが「美味い」のかなんてことは、もちろんナンセンスですが、宮泉銘醸の造るお酒で、面白いのは「會津宮泉」の方なのかもしれませんね。

そういった意味では、色々な味を楽しむには「會津宮泉」の方がオススメかもしれないですね。もちろん、「冩樂」も美味い酒ですが!

終わりに

今回、宮泉銘醸にお邪魔させていただいて感じたことは、とにかく酒造りに対して妥協一つせず、丁寧に酒造りを行っている酒蔵だなということでした。

都合上、割愛させていただきましたが、上槽室(醪を搾る部屋)は常に室温が0度で保たれ、搾りの時は、-3~-4度にされているとのこと。いうまでもありませんが、酒質のためということでしょう。

そんな宮泉銘醸も現状のような酒造りを行うようになったのは、今代の社長(宮森義弘氏)に代わってからとのことでした。

宮森氏(宮森義弘氏)は、社長就任後、酒造りに関わる全てを細部に至るまで一新させ、年間200石(3万6千ℓ)だった石高を10年で年間2000石(36万ℓ)まで成長させたといいます。

「当時(兄が社長に就任した時)、僕はまだ実家に帰ってなかったんですけど、その時は借金なんかも多くて、本当に厳しかったみたいです」
とは、弟の宮森大和氏の談。

職人の手による微に入り細を穿つ酒造りが、現在の宮泉銘醸を形作り、「會津宮泉」や「冩樂」という美酒を造り上げているのでしょう。

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