文責 佐藤

飲み屋へ行こう

「蔵こん」の取材にて、蔵元さんや酒屋さんとお話ししていますと、割烹、居酒屋さんについて「○○は名店だよ!」「××に行ってないのは損してるよ!」といった話で盛り上がることがままあります。そしてそのままご一緒したり、ひとりで遊びに出歩くわけですが、今回はそんな、飲み屋に取材してみようというお話です。

実は、蔵元や酒屋がお勧めする飲み屋は「特別」なのです。

なにが「特別」かというと、お酒を販売する際、蔵元が特に大事にするのは売り上げではありません。保管、管理がどれだけきっちりしているかです。蔵元のなかには、管理がしっかりしているかどうか確認が取れないとお酒を販売しないところも多く、それだけお酒は変質しやすい飲み物といえます。

その点、蔵元が信用する酒屋、その酒屋がお勧めする飲食店というのは、お酒が大事にされ、美味しく飲める安心のお店なのです。

そんなわけで、今回紹介いたします特別な飲食店は、前回ご登場いただいた「酒道庵 之吟」のご主人からのご紹介です。

美酒和膳 ひがし中野しもみや

2004年にオープンしまして、既に知る人ぞ知る名店として名高い「しもみや」です。
オープン当時は焼酎人気が非常に高い時期だったのですが、「日本酒は季節感があって魅力的で、大学の仲間が日本酒をやっているのも大きい」とのことで、焼酎を揃えつつも、特に日本酒に力をいれた品揃えのお店です。

「しもみや」のご主人は、東京農大醸造学科を卒業。「発酵仮面」小泉武夫先生の教え子になります。
お料理だけでなく、お酒のエキスパートであるからこそ、一段と深みのあるお食事が提供できるのですね。

おすすめのお食事メニューは季節にあわせた「お楽しみコース」。
一品につきお酒を一杯というスタイルが一番人気とのことで、今回は「之吟」さんが扱うお酒にあわせて、ちょっと変則コースをお願いしました。

無理を言ってすみません!

ちなみに通常のお酒コースは、7種で2合や、10種で3合のものがあります。
ひとつの銘柄につき60ml程度で多くの種類が味わえますのでおすすめです!

まずは純米生の「加茂福」。しっかりした味わいで、お米の旨味が活きたお酒です。
このお酒にはどんなお料理があうのでしょうか?

お肉!
下仁田ネギと豚肉は優しめの味付けですが、それでも強い旨味が口の中に広がります。

日本酒と肉との相性は難しく、肉の味わいに酒の風味が消されてしまったり、酒の酸味が肉の旨味とミスマッチを生じさせがちなのですが……。

旨い!

お料理の旨味、甘みを加茂福がしっかりと受けとめて高めあい、後をひかずにさらりと流れます。

続いてのお酒は、純米吟醸「一歩已(いぶき)」。キレ良く飲みやすいお酒です。
よく見ると「一」の文字のところに、9/16と日付がはいっています。

これはお酒を開栓した日付。実は日本酒は空気に触れることで、硬さやトゲトゲした感じがほぐれ、飲みやすく、ふくよかになる傾向がありまして、お酒によって美味しい飲み頃が違います。
もちろん開栓して時間がたちすぎると、酸っぱく、だらしなくなってしまうのですが、「しもみや」ではその美味しいころを見極めて、お酒を出しているんですね。

ちなみに裏ワザとして、お酒を開栓して後、上下にひっくり返すことを繰り返して、強引にお酒を“ひらく”こともできます。ご家庭でぜひ。

「一歩已」にあわせて、前菜の盛り合わせです!写真は二人前になります。
玉子焼き、リンゴの生ハム巻き、菊のお浸し、パセリのお浸し、大根のマリネ(自家製マヨネーズ)、レンコン煮物、筋子の粕漬け(一年間熟成酒粕使用)の豪華7品。

女将さんが「年々身体を気にされるお客さんが増えていくので、塩分の取りすぎにはパセリが良いからと、健康を大切にしてメニューを作っております」とお話しされるように、「しもみや」は素材の味わいが活きた優しい味付けのお料理が多いです。

昔は珍味一品でぐいぐい呑むというお酒飲みの方が多かったですが、今は飲んで、食べて、お話しするのが楽しいという飲み方を大切にしたい」とはご主人の談。

なにを食べても、なにを飲んでも逸品揃いで、とても語り足りない「しもみや」のお食事ですが、原稿にも限りがありまして、泣く泣く締めのお酒です。

純米大吟醸無濾過生原酒の「洌」。味わいはリンク先にあります大吟醸のものと同じ傾向の印象を受けましたが、そこは無濾過生原酒。味わいが通常のものより濃く、香気が広がる感じがありました。飲み応えの満足感が増し、反面、食中酒としての汎用性は狭まっているかもしれません。

「洌」にあわせる最後のお料理は、季節野菜の天ぷら。
サツマイモ、下仁田ネギ、万願寺トウガラシの三点セットです。
これまた抜群の相性です!

お料理とお酒の相性について、ご主人は「お酒の扱いは、食事がメインで、そこにあわせること。食材に惹かれてから日本酒を考えることもあるし、日本酒を利いてから、どんな料理があうかを考える場合の両方がある。とはいえ一番大切にするのはお客さんの反応。自分があうな、と考えた組み合わせに、お客さんが合わないことも当然あるから
ご主人は間違いなくお料理にも日本酒にも精通されているのですが、それでもお客さんの反応を第一に考えるというのが意外に思われましたが、しかし実際にカウンター越しによくお客さんの箸の進みを確認していたり、お酒談義に華を咲かせている様子を見ていると、本質的におもてなしの心が身についてらっしゃるのだなと感嘆します。

取材の最後に、いつもお客さんにお渡しされているカードを頂きました。
酒飲みあるある「昨日飲んだお酒が美味しかったけど、名前なんだっけ?」を防止するありがたいサービスです!
今回残念ながらご紹介できなかったお酒、お料理。いずれも逸品でした。皆様も中野近辺にいらっしゃいました折にはぜひ、「しもみや」へお立ち寄りください。

お店情報

「美酒和膳ひがし中野しもみや」
住所:東京都中野区 東中野1丁目52-18 クワハウス 1F
電話番号:03-3363-7878 ※ご予約は4名様まで

開店時間・定休日は公式HPよりご確認ください。
公式HP:https://www.shimomiya.jp/

東中野駅より徒歩4分

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