今回の「酒蔵へ行こう」は青森県十和田市にあります「鳩正宗」にお邪魔しました。

アクセスが車になる土地柄ですから、酒蔵観光は2~3月上旬の期間限定(要予約)。施設をじっくりと見学するというよりは、味見をしましょうというスタイルになるそうです。

鳩正宗

「鳩正宗」は創業明治32年。稲生川に因んだ「稲生政宗」(いなおいまさむね)の銘柄で親しまれていました。昭和初期、白鳩が蔵に舞い込み神棚に住み着き、先々代の当主が守り神として大切に祀りまして、「鳩正宗」に改名したそうです。

昭和47年に十和田の市内から、現在の地へ移転したのですが、いまでも当時の建物の一部と、お祀りする社が施設内にあります。

逆光になり恐縮ですが、建物の陰に、当時つかっていたフネ(お酒を絞る機械)の一部もあります。

この日は社員杜氏の、佐藤匠 杜氏にお話をお伺いしました。

看板娘?のぽっぽちゃん

会議室に入ると、特徴的なキャラクターがお出迎え。「ぽっぽちゃん」は鳩正宗の公式マスコットで、よく見ると髪が鳩になっています。

佐藤杜氏は地元の十和田市出身。平成16年に社員杜氏に就任し、優れた技能で県内でも評判の人物です。

おすすめ銘柄と一緒に撮影。ラベルは八甲田となっておりますが、正式な名前は「八甲田おろし 純米大吟醸 華想い40」。

上品な香りを楽しみつつ口に含みますと、旨味の奥に辛みがあり、すっきりとキレます。味わいに奥行きがありながら、爽やかなお酒ですので食事にもフィットします。

少し脱線しますが、今回訪れた青森県の純米大吟醸は食事に合うものが多く、酸に由来するのか、特徴的な辛みが濃い味付けの料理とも相性が良いです。鯖、にんにく、いちご煮(ウニの水煮)が名物ですから、土地の食とあわせると幸せになります。

酒蔵見学をさせてもらいながら、お話をお伺いしました。

普段の酒蔵見学が、2~3月なので、この時期(夏)は設備のメンテナンスなどをしています。右側の凹んだところは甑(こしき)を置くところ。米を蒸す器械なのですが、今は新しい甑と交換するため、空いています。

見学者向けに、鳩正宗で用いているお米の玄米や、精米後のサンプルも置かれています。

酒米で盛り上がるマニアな見学者もいますか?とお伺いすると、「いやあ、飲むのがメインですから」とのこと。自分のことを言われているようでドキッとしました。

「鳩正宗」でも、お酒の生産量はやはり減ってきていて、昭和の頃に比べて半分以下の石数になっているそうです。ただ昔は普通酒メインのよくある造り酒屋でしたが、時代にあわせて特定名称酒を増やしています。ワイン酵母にチャレンジしたり、航空会社に採用されたり、上質な造り酒屋になりました。

酒蔵らしい、貯蔵タンクの区画です。ただ特定名称酒は瓶詰のち低温貯蔵するため、こちらには保管されず、増設した冷蔵庫に貯蔵されています。

近年、全国的にすばらしく酒質が向上している印象を受けますが、そうした研究を受けて、全国の酒蔵は設備投資に苦労されています。瓶詰め保存ひとつを例にとっても、これまでは出荷前の瓶を保管するだけの冷蔵スペースがあれば良かったものが、タンクに保管される量を丸々、瓶に詰めた状態で保管するスペースが必要になるわけですから、容積、冷蔵代が馬鹿になりません。

佐藤杜氏は非常に柔らかいお人柄で、自慢話ととられかねないようなお話を全くなされないのですが、造るお酒の評価が非常に高く、名杜氏の一人です。そうした評判は、属人的な技術のみならず、設備面の向上にも心を砕く姿勢に支えられているのか、と胸中で独りごちました。

それでは、会議室に戻ります。

「鳩正宗」では「八甲田おろし」のほか、「鳩正宗」ブランドのお酒を出しています。こちらは旧ラベルになりまして、これからはハンコ型のラベルに統一されるそうです。

県外向けのブランドは「鳩正宗」にまとめて展開していく予定ですが、「八甲田おろし」でも純米酒系列のお酒を造っていましたので、名前の統一はあくまでわかりやすさを重視したものになります。
佐藤杜氏いわく、旨みのある、重量級の酒を大事にしたいとのことで、ブランドによらず本格派のお酒が楽しめます。

あくまで雑談の中ででたお話ですが、最近人気の華やか軽やかなお酒にはライバル意識があり、重量級で勝負したいとのことです。
私からすると、「鳩正宗」は非常にバランスの良い美味しいお酒ですから、重量級というより本格派のイメージですが、いずれにせよ、全国の地酒が安易に売れ線に流れず、個性を大事に醸されている今の状態を好ましく感じています。

願わくば、もっと当たり前に、各地の様々な個性の地酒が楽しまれる世の中になってくれれば……、といったところで、今回の記事を終えようと思います。

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