5月某日、鹿児島県は奄美大島の「富田酒造場」さんを訪れた。
「富田酒造場」さんは、奄美大島随一の繁華街、屋仁川通から徒歩5分かからず着くという超好立地の地に居を構える酒造だ。
「富田酒造」は昭和26年に「らんかん酒造」として創業している。昔は、沖縄の泡盛とは違い、黒糖が入った泡盛という意味で「純良泡盛」と名前で製造していたそうである。
やはり、黒糖焼酎と泡盛の関係は深い。
さて、そんな「富田酒造場」さんですが、この酒蔵の代表銘柄といえば、「龍宮」、他に、「まーらん舟(せん)」や、創業当時の名前が残っている「らんかん」等が有名だ。焼酎好きであれば、一度は飲んだことがある鉄板の黒糖焼酎ともいえる。
酒造訪問
写真は酒造りに使う黒糖のブロック
まず、最初にお話しして頂いたことは、黒糖そのものが製糖工場と、サトウキビの産地によって味が変わるということだった。
案内してくれた蔵人の向井氏は、気軽に「食べ比べてみてください」とおっしゃる。ここまで形のしっかりしたブロック状の黒糖を食べたことがない筆者であったが、遠慮がちに少し崩れた部分を一つずつ口に運ぶ。
甘みの質の違いに(少し塩気に近いものを感じたものもあった)、硬さの違いがある。直ぐに口の中で溶けるものと、溶けないものとの違いが感じられた。
沖縄の黒糖と、徳之島の黒糖だそうだ。
日本酒でもそうだが、原料が変われば当然味は変わるものだ。そんなことを再認識させられた一幕であった。
その後、更に奥に進むと目に付くのは、甕・甕・甕。甕のオンパレードだった。
お話を伺ってみると現在使っている甕は32個とのことだが、数えてみると全部で40個の甕があった。尋ねてみると、向井氏は苦笑いしながら、「うちの大将が、うちらしくない酒が出来るから使わないってことになってるんです」とおっしゃる。
普通、五月は酒造りをしない期間だ。焼酎とはいえ、やはり暑さは大敵なのだ。それでも、造るのは何故かと尋ねてみると、「うちは小さいんで」との答えを返してくれた。
自分の蔵らしくない酒ができるから使わない甕を使えば休みが増えるのに、それを放置してでも、酒を造る。そこに、職人の魂のようなものを感じ取れた気がした。
「富田酒造場」さんで造られる酒は全て甕仕込みによって造られる。これは、後日談になるが、全ての酒を甕仕込みで造っている黒糖焼酎の酒蔵は、「富田酒造場」さんが唯一とのことだった。
写真は一次仕込み
「甕も一つ一つ違って癖があるんですよ。そういえば、この前大学の偉い先生が来て、甕や他のとこにも蔵付き酵母がいるって教えてくれたんです。ちょっと安心しました」
向井氏はそういって笑う。
その後、階段を上ってみると様々な二次仕込み用の機械類が目に映るが、ここでは割愛させて頂く。黒糖焼酎の一次仕込み、二次仕込みの造りに関しては、「黒糖焼酎って何?」をご覧頂ければと思う。
二階に上がり、蔵の中の奥の方に樽が幾つか並べられているのが目に映る。
樽について尋ねてみると、向井氏がまた苦笑いしながら解説してくれた。
本来は、焼酎を樽で熟成させる際には「色抜き」という工程を行うのだが(樽の中に水を入れて木の色を出にくくする)、最初の樽を入れたときは、そんなこと知らないからそのまま入れちゃって、結局色が付いちゃって製品化できないから(焼酎は有色が余り許されていない。詳しくは「黒糖焼酎って何?」を参考にしてください)、あそこに置いてあるんです。
たしかに、樽熟成をしている酒蔵さんにいけば必ず聞こえてくる、筆者にとって不可解な酒税法の話だ。ただし、そういった他の酒蔵ではタンクで寝かせた酒や少し若い酒とブレンドすることで色を薄め瓶詰めしている。
そのお話をしてみると、また苦笑いを浮かべられて(なんだかすみません)、「大将がそういったことを好まないのでやらないんです」とおっしゃる。
職人の魂がこんな所からも感じられる。
その後、他の樽の貯蔵スペースも見せて頂いた。当然、上記の写真だけではない。
ちなみにだが、樽で長期熟成させた黒糖焼酎、話によるとかなり旨いらしい。とはいえ、お客さんに飲ませると問題になるらしいので飲ませられないとのことだった。
一刻も早くこのよくわからない酒税法が改訂されて、樽熟成の焼酎が早く普通になればいいのに、と思う筆者であった。
こぼれ話
ここ「富田酒造場」さんで造られている「まーらん舟」や「らんかん」「かめ仕込み」等のラベルは全て代表の富田 恭弘氏による手書きであるという話だった。
「だから急かすときは、社長早く書いてくださいよって急かすんです」そういて向井氏は笑う。
現在、クラフトビールやクラフトジンと呼ばれる酒が人気だが、結局のところクラフトってこういうことなのだと思う。
酒造りの確かな技と、美味い酒を造るという情熱、それらを併せてなお、ラベルにまで表現されるメッセージ。「富田酒造場」はまさにハンドクラフトの酒蔵なのだと思うのだ。
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