埼玉県入山郡毛呂山町にある麻原酒造さんへのロングインタビュー全3回のうち、今回が第2回となります。

 

―お酒造りについてお伺いしたいのですが、最近は、本当に凄く磨いたお酒を見かけるようになりましたよね。

麻原:私自身は、米を磨くのって、40も磨けば充分だと思っているんですよ。ある意味、50でも充分だと思うんですよ。

―確かにそうかもしれませんね。

麻原:そうです。うちで造っているので、25年農薬を使っていないお米で造った日本酒があるんです。大吟醸もあるんですけどね。大吟醸は一年経つと捨てちゃうんだけど、「醸しの道は無限なり」「焦るべからずゆるりゆるりと我が道を行く」っていう「大天授」という酒が。

―「琵琶のさヽ波」という名前でも思ったのですけど、風流な名前をつけるというか、そういう伝統があるんですかね?

麻原:さっきも言いましたけど、うちの親父って言うのが、どこにでも書いてっちゃう人だったんですよ。「いかんよ」とか、「あかんよ」とかね。関西は全然関係ないのに(笑)杜氏呼ばないで自分たちでやってたから、絶対に間違えちゃいけないっていうのがあったから、そういうのもあって、後世に残るような名前をつけようとしていたんじゃないですかね。

―名前のことなんですけど、「琵琶の」ってなっているから、最初見たとき、滋賀県のお酒かなって思ったんですけど。

麻原:あの、実はですね、この八高線沿線(高崎から高麗川をつなぐJRの路線)っていうのは、滋賀県から来ている人が多いんですよね。出が。やっぱり、水がよかったていうのは聞きますね。内は滋賀県の日野町ってとこの出身なんですよ。まぁ、琵琶のほとりなんですけど。もう滋賀方とは、付き合いもないんですけどね。初代が9歳のときに、こっちに来てたらしくて、今で言うと小学校3年生くらいでしょう?相当辛い思いとかしたんじゃないですかね。それで、実家とか、父親、母親とかを偲んで「琵琶のさヽ波」っていうのを詠ったっていうか、書いたんじゃないかなとは思うんだけど。

近江やに名高き松の一本木、先から先へと聞くさヽ波」

(心をこめて人に喜ばれる酒造りをしていれば、人から人へ「さヽ波」の如く、世の中に伝わっていくだろう)という意味

 

麻原:で、今の所に29歳の時に、創業したんですけど、ただ、毛呂山の所はうちの初代がやる前からあったんで、おそらくは、江戸とかからあったんじゃないですかね。

―詳しくは分からないけど、江戸時代から続いていたと。

麻原:ええ、色々、江戸時代からのものも残ってましたから、昔は樽をリヤカーに乗っけて、4、5人で1日仕事で運んでたらしいですよ。

―うわー、大変そうですね。でもじゃあ、昔から、酒造りに適しいていると考えられていた土地だったのかもしれませんね。

麻原:ここはそうみたいですね。

東毛呂駅

―非常に商品の種類が豊富ですけど、新しいものにチャレンジするっていうのは、リキュール類の製作とかも10何年か前ですし、そういったことをするようになった、きかっけみたいなものってあるんですか?

写真は梅酒仕込み

写真は麻原酒造のビアサーマル

麻原:いや、昔ね、私は実は日本酒はもう駄目だと思ってたんです。ある意味、美味しくなかったし、若い頃だけどね。だから、ビールとかばっかり飲んでいて、ところが、ある時に酒門の会っていうのがあって、当時、瀧自慢とか、黒龍とか、明鏡止水とか、美丈夫とかをたまたま飲んだときに、日本酒ってこんなに美味しいんだ!ってなって、ああ、こういうの造れればいいなーって、思ったんですよ。で、そう思った時に、ある協会から酵母が届いて、試験醸造やってくれないかっていわれたんです。その酵母がうちを含めて、4蔵位にいったのかな。それで、ある秋田の蔵が凄いいいやつ作って、めちゃくちゃ売れたんですよ。でも、うちは小さい蔵だったし、力もなかったから、地道に地道にやっていて、それが専門店さん(酒屋)に入ってから、全国にぐわーって広がっていったんですよ。当時は青りんごのようなお酒だったんですよ。ちょっとシュワシュワさせてましたね。

―それはタイミング的にはいつごろだったんですかね?

麻原:15、6年前だったと思いますね。もっとかな?17、8年前かな。このヒットがなかったら、うちは終わってたんじゃないかな(笑)

―なるほど。次は、酒造りについてお伺いしたいんですけど。

麻原:まぁ、はっきり言ってですね。私の中ではですね、酒造りっていうのは、5割は設計なんですよ。

―設計というと?

麻原:家造るのと同じで、設計なんですよ。基本的には、どういう米を、どれだけ磨いて、どの酵母使って、酵母に合わせてやるじゃないですか。発酵の仕方にも色々あるんです。で、麹はどう造るのか。これも、「突破精」(つきはぜ 破精が米の全体に生じた場合、端麗で上品な仕上がりになるとされる)とか「総破精」(そうはぜ 破精が全体に生じた場合、濃厚でどっしりとした仕上がりになるとされる)とか色々あるんですよ。「アルファアミラーゼ」とか「グルコアミラーゼ」とか、これをどうするか、と。グルコアミラーゼを多く出すのか、どうするのか。乾燥させる度合いはどうするのか、とか、それによって味も変わってきちゃいますし。その辺は、全部設計なんですよ。

―なるほど。

麻原:でね。うちは、五百万石(酒米のこと)は相性がイマイチなんですよ。お米とかの相性も非常にあるんです。他には、どういう風に搾るのか、ちょっとあまく搾るのか、結構きるのか。発酵の仕方も、最初のうちに一気にこうがーっと上げるやり方とゆっくり上げてゆっくり落とすやり方と、スローペースでこう、とか。結構色々なやり方があるんです。発酵の仕方もそうですし、搾りもどういう搾りがいいのかとか。あと、搾った後のお酒もあるじゃないですか。一度殺菌するのか、二度殺菌するのか、生なのか(火入れの有無のこと)とか。だから、そういうのが全部設計になっていて、で、杜氏さんっていうのは、大工さんと一緒で、それにそってどれだけ造れるのかっていうことなんですよ。おそらく、大工さんとの最大の違いは、生きているもの扱っているってことですよね。

―話を聞いていると、本当に大工さんと近いのかもしれませんね。

麻原:酵母のパワーとかは本当に凄いから。で、酒母もまず「速醸」っていうのが当たり前だけど。うちは、「高温糖化」っていうのでやってます。6時間から8時間の間、50~60度位で、「糖化」して、その後、一気に酵母入れて。それによっても違うじゃないですか?山廃は山廃で全く違いますし、ですからその辺の選択ですね。それによっても、全然違いますよ。

―蔵元さんによると思いますけど、特徴的でキャッチーな造りだけ抜き出して、だからうちのは面白いですとか、美味しいですとか、そういった売り方をされる所もあるじゃないですか?

麻原:私はもう飲んでみればわかるじゃないかと。飲んでくれよ!(笑)っていう。ただ、保管方法はしっかりやって欲しいなって、保管が悪いと、一発でだめになっちゃいますからね。しっかり造るから、しっかり管理してくれっていう。そうすれば、美味いから。

いかがでしたでしょうか?

酒造りのお話を聞くと、中・上級者向けのお話になってしまいますが、酒造適合米と水の相性などのお話を伺っていくと、酒造りの深淵を少しだけ覗けたような気持ちになれますね。

次回は、これから日本酒業界についてです。是非、お楽しみください。

 

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