前回に続きまして、全国新酒鑑評会を追っていきます。前編では審査員のプロファイルがなされる予審カードについて勉強しました。

全国新酒鑑評会では、審査結果が出展酒蔵に伝えられます。そのデータをお酒造りに役立ててほしいということなのですが、加えて、他の酒蔵も含めた、全体の出品酒の傾向が伝えられます。審査結果および分析結果は、一般には公開されていませんが、分析結果のみ、2年度前の平成27酒造年度(2016年)のものを酒類総合所のHPで見ることができます。

今回はその分析結果から、私のような素人にもわかりやすい項目だけ掻い摘み、勉強してみます。なお、以下〇年度と記す場合、〇酒造年度を省略しています。ご注意ください。

原料米について

原料米は圧倒的に山田錦が多いです。100%山田錦のお酒のうち、600点弱が兵庫県産になります。この点からも、特別なお酒には兵庫県産山田錦、といったブランドは揺るがないといえるでしょう。

ただ少数ながら、他の有力な酒米や、比較的新しい酒米が用いられている様子がうかがえます。個人的には越淡麗が2位の人気であるのが意外でしたが、山田錦と五百万石の掛合わせで高級であること、新潟は酒蔵が多いこととをあわせると、そこまでおかしな話ではないでしょう。

むしろまだ名前が付けられていない、山形酒104号(後の「雪女神」ゆきめがみ)の試験醸造で出展されているのがおもしろいところです。この年は確か「白露垂珠」で有名な「竹の露酒造場」さんが、山形酒104号で金賞を受賞していたかと思います。

近年、試験醸造での金賞受賞はちょこちょこ耳にしますので、マニアな方はご存知かもしれませんね。

出品酒の成分の推移

左から昭和60年度、平成2年度、18、19、20……と推移が見られます。

特徴的なのは多くの成分が変わらないなか、平成24年度より日本酒度が低くなっていくこと。日本酒度は低いほど糖が多く、甘く感じやすくなりますし、実際の評価でも甘い特徴のお酒が増えているとレポートされています。

また、平成26、27年度で、ぐっとカプロン酸エチルが増えているのが気になります。この点については次項にてみてみましょう。

使用酵母の推移

平成19年度に9.8%の酒蔵が「きょうかい1801酵母」を使用しており、翌20年度には18.0%とほぼ倍増。以降、増え続けていきます。平成27年度では32.5%の酒蔵が使用していますから、「きょうかい1801酵母」は新酒鑑評会用の酵母となった、といっていいかもしれません。

平成29年度の鑑評会の簡単な発表をみても、甘さが特徴のお酒、カプロン酸エチルの香りが高いお酒が多い様子は変わらないようです。

酵母だけでお酒の味、風味が決定づけられるわけではありませんが、近年、「きょうかい1801酵母」などの「高香気生産酵母」のお酒が流行しており、なかでもカプロン酸エチル高生産酵母の使用技術が高いレベルで広まっているようです。

リンゴ様のフルーティな香りで飲みやすく、新しく飲みやすい日本酒のイメージを訴え始めたのが10年ほど前のこと。今や、似た酒質のお酒が多くなっていることは平成27年度の時点でも指摘されていました。

アルコール添加について

最後に少し触れておきたいと感じたのが、アルコールの添加量について。
これはわかりやすく、受賞・金賞のお酒の方が添加量が多いです。

一概には語れませんが、鑑評会出展酒は味わいが豊かなお酒が多く、近年はさらに甘み、ふくらみが豊かな傾向がありますから、キレが悪くなりやすいと言えます。
そこで、香りを豊かにするだけでなく、キレを良くする効果が期待できる醸造アルコールの添加は、お酒のバランスに貢献しています。

昨今はアルコール添加がネガティブな印象で語られることが多いですが、「彼」もちゃんと働いています。各人の好みは完全に自由であるべきですが、新酒鑑評会の評価するお酒のバランスは2年前の時点で、このように分析されていました。

おわりに

実際の分析では、もっと詳細なデータが公開されています。私の俄か知識では誤解を生むことにしかならないだろうという判断で省きましたが、今後も理解を深めていきたいところです。
前編で既に述べましたが、全国新酒鑑評会の目的は、酒造りの技術の向上と、お酒を飲む人の関心を高めることです。ですから、これらの審査、分析は、お酒を飲む人にとって、必ずしも参考になるものとは限りません。

いまはもっとわかりやすい、シチュエーションを限定したコンテストも数あります。ただ、日本酒のお勉強をする際には、全国新酒鑑評会はなかなかおもしろい情報を公開していますから、気になる方はぜひ一度チェックしてみることをお勧めします。

例によりまして、私はお酒を造ったことも、審査したこともございませんので、なにか間違い等ございましたら、コメントにて指摘して頂けますと幸いです。

それではまた次回。

 

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