「姿」を造っている飯沼銘醸は、栃木県栃木市西方町にあります。現在、栃木のお酒は、どんどん美味しいお酒が増えつつあり、日本酒好きの中では、密かに注目を集めている県となっています。飯沼銘醸さんの「姿」も、その注目を集める1つといえるでしょう。
今回のインタビューでは、これからの日本酒業界のことや、「姿」の歴史について等についてお聞きした、全2回の内容となっています。是非、御一読ください。
─ 1つ日本酒の問題として、そのお酒を飲むだけだと忘れてしまうことが多いというのがあると思うんですが、どう思われますか?
飯沼:確かに自分も忘れてしまうということはよくありますね。飲んでみて、結構美味しいなと思うお酒もあるんですけど、飲んでも忘れてしまうものが多いんです。インパクトが強いとか、口にあわないものとかは忘れないんですけどね。
─ やはり、今の日本酒ブームによってファンというか、飲む人が変化しているな、みたいな実感ってありますか?
飯沼:ありますね。この前も、東京の付き合いのある酒屋さんがバスでお客さんを連れてきてくださったことがあったんですけど、その時は、男の人が3人で女の人が20人位いました。最近は、男性よりも女性のほうが日本酒を飲むのかもしれないですね。
─ ワインのような日本酒が増えてきましたしね。
飯沼:口当たりがよくて、キレがあるほうがいいと思うんですよ。というよりも、そうじゃなきゃ飲まれないっていうか、飲めないっていうか、日本酒を飲むのって結構疲れちゃうじゃないですか。だから、日本酒のちょっとマイナスなところは、飲むと時にちょっとした覚悟みたいなものがいることだと思うんです。だから、みんな飲みに行くってなるとビールとかの店に行ってしまうような気はしますね。
日本酒は飲まず嫌いな方が多いせいもあるかもしれませんが、最初からそういったイメージがあるから、日本酒が揃っている店にも行かないし、軽く日本酒を飲もうってことにもなりにくいと思うんですよね。それでも、飲んでくれる人は増えているとは思うんですけどね。
─ 「姿」を作るようになってから、女性のお客様が増えたんですかね?
飯沼:そうだとは思いますけど、どうして増えたかはわからないですね。
─ 日本酒のブームみたいなのが来た時は、どういった宣伝をしていたんですか?
飯沼:うちはそんなに大きくないですから、宣伝とかは殆どしていないですし、営業もしていないんですよ。日本酒造りも4人でやっていますし、瓶詰めの方はパートの人とかにも手伝ってもらって、あとは配達の人が1人と、事務員の人が1人っていう感じでやっているんです。
─ お酒造りの時期って忙しかったりするんですか?
飯沼:10月から3月くらいまでは、ずっと酒造りをしているんです。だから、この期間は殆ど毎日休みはないんですよ。まぁ、それはどこの酒蔵さんも同じだと思いますけど。日曜だけは流石に午前中に仕事が終わる形にしていますね。そうしないと文句が出ちゃうから(笑)でも、僕が一番忙しいから、みんなあんまり文句は言わないんです。ですから、1人でも風邪をひいてしまうと大変なんです。そういうのもあって、インフルエンザなんか怖くて、今年はうちの奥さんがインフルエンザになっちゃって、その次の日に自分の喉が痛くなっちゃったから、すぐに病院に行って検査してもらったんです。まぁ大丈夫だったからよかったなーって(笑)
─ やはり、お酒造りって大変なんですね。その、造っている最中にやっぱり危険みたいなことってあるんですか?
飯沼:ほんの少しですけどありますよ。タンクに落ちて亡くなっちゃった人もいますし。タンクに落ちると酸欠で死んでしまうんですよ。前にあったのは、あんまり大きくない酛場(酒母室)のタンクの中に杜氏が顔を入れちゃったんですよ。そうすると、酸欠になってそのままタンクの中にさかさまに落っこちちゃって、亡くなってしまった事例もあります。
─ そういう話を聞くと、あだやおろそかに飲めなくなっちゃいますね。やっぱり、飯沼さんにも好きなタイプの日本酒とかってあるんですか?
飯沼:ありますよ。基本的に私は辛口よりかは甘目っていうか旨口のお酒の方が好きなんです。だから、昔は淡麗辛口のお酒ばかり造っていたんですけど、私になってからは辛口のお酒を造らなくなっちゃいましたね(笑)特別本醸造とか普通酒は昔ながらのお客様がいらっしゃるので、淡麗辛口のお酒で造っています。でも、だからという訳ではないんですけど、姿の方は旨口っていうか、甘目で造っていますね。やっぱり、少しずつ好みとかも変わってくるから、そのうち淡麗辛口で造っているお酒も変わってくるかもしれません。
─ やはり、飯沼銘醸さん独自の特徴とかっていうのもあるんですか?
飯沼:うちの面白い所っていうか、他の酒蔵さんだったら考えられない所は、瓶詰めする場所と、事務所の間に造り(お酒を造る場所のこと)があるところですかね。他の酒蔵さんだったら、絶対に蔵の中に人は入れないようにするんですよね。でも、うちは蔵そのものが通り道になっているので、事務員さんとかパートさんとかが皆ここを通って行くんです。朝なんかは皆急いでいたりするんで、危ないこともあるんですけどね。
─ いつ頃からそういった構造になっているんですか。
飯沼:多分、明治位からずっとこんな構造だと思いますよ。危ないこともあるけど、造りの真ん中にいると全体が見えるから、皆が何をやっているかはわかるんです。そういう意味ではいい構造だとは思っていますね。
決して大きくはない規模と、少ない人数の中で、特徴的で美味しいお酒を醸し続ける飯沼銘醸さん。こういった話を聞いていくと、自分たちがなにげなく口に含むお酒にも、色々な苦労があるんだな。と、改めて思いました。
自分の好きな酒が取り上げられるとは何とも嬉しいですね。後ろ姿、艶姿なんかは贈り物としても使ったことがあるので、そういったシーンでも使われて欲しいですね。自分はもっぱら黒い瓶の無濾過生原酒ですけどね。