焼酎の歴史を探っていく、【焼酎の歴史シリーズ】。今回は「芋焼酎」の誕生について、見ていきたいと思います。

ここで、読者の皆様に質問です、代表的な焼酎、芋・麦・米・黒糖の4種の焼酎の中で、最も歴史の浅い焼酎はどれかということです。

ちなみに、最も古いとすると、米焼酎と麦焼酎で論争がおこると思われます。麦焼酎は16世紀から醸造が行われていたとされています。とはいえ、明確な資料が発見されておらず、見つかっている焼酎の最古の資料は、鹿児島にある大口群山八幡神社が改築される際に見つかった落書きでした。

 

永禄二歳八月十一日  作次郎

鶴田助太郎

其時座主は大キナこすじをち

やりて一度も焼酎を不被不候

何共めいわくな事哉

(日頃からけちな座主は神社改修の間一度も焼酎をふるまわなかった。なんとも迷惑なことだ)

 

永禄二歳とは永禄2年(1559年)のことを指しています。この頃には、大工に振舞われる程度には、焼酎というのが薩摩では広まっていたという資料として、とても価値の高い落書きといえます。とはいえ、この時の焼酎が何だったのかはいまだ判然としません。

ですが、当時一般化されていた「お酒」が今でいうところの日本酒(現在でいう「どぶろく」便宜上日本酒として表記します)であった以上、その「日本酒を蒸留したもの」と考えるのが妥当だと思います。ゆえに、ここで書かれている「焼酎」は米焼酎だったのではないかと考えられるわけです(詳しくはコチラ)。

話を戻したうえで、結論からいうと、最も歴史の浅い焼酎は黒糖焼酎です。黒糖焼酎は奄美大島で戦後に誕生した焼酎です。奄美大島では基本的に泡盛の製造がされていましたが、戦後の物資難によって、製造ができなくなってしまいました(ちなみに、泡盛の原材料は米)。代わりとして、黒糖を使うようになったのでした。それが黒糖焼酎の誕生なのです。

では、本題の芋焼酎はどうかといえば、米・麦が最も古く、黒糖が最も新しい訳ですから、その中間にあたるのが芋焼酎ということになります。では、いつ頃から造られるようになったのか。

昨年、維新150周年を迎えましたが、芋焼酎はその明治維新にも大きく関係している人物、島津斉彬の時代に造られました。ゆえに、島津斉彬は焼酎の父ともいえる人物なのです。

 

サツマイモから芋焼酎まで

芋焼酎の話に入る前に、芋焼酎の原料である「サツマイモ」について話しておきたいと思います。現在、サツマイモが最も生産されている県は、名前からもわかるように「サツマ(薩摩)」、つまり、鹿児島県です。名前からすると、「薩摩」原産といった趣も感じられますが、原産は南アメリカのペルー熱帯地方とされています。

では、なぜ「サツマイモ」という和名なのかといえば、当時の琉球国から貿易で薩摩に伝わり、それから日本の各地に広がっていって栽培がスタートしたため、サツマイモと呼ばれているそうです。

簡単に変遷を追っていくと、1698年に琉球から種子島に伝わり、栽培されるようになったらしいのです。が、この時は、本土つまり九州本島内の薩摩には伝わらなかったそうなのです。本格的に薩摩に伝わったのは、1705年のことで、船乗りであった前田利右衛門という人物が琉球に訪れた際に持ち帰った芋が、薩摩藩内で栽培されるようになり、広まっていったそうなのです。たしかに、芋焼酎には「前田利右衛門」という銘柄がありますね。

そんな、薩摩で栽培されるようになったサツマイモですが、それを使ってお酒を造るようになるのは、江戸後期のこと、明治維新も近い頃でした。

薩摩藩の島津斉彬は、西洋列強に対抗するために、軍備の近代化を急いでいました。そのために、大量の工業用アルコールを必要としていたのです。

当時の工業用アルコールは米焼酎を造る際に生まれるものでした。が、薩摩はそもそも余り米作りに適した土地ではなく、米の出来もあまりよくないため、そもそも大量の工業用アルコールを造るのには不向きな土地柄だったのです。

そこで、島津斉彬は薩摩で広く栽培されるようになっていたサツマイモに目を付けたのでした。1700年代に伝わり、薩摩特有の火山灰を含み水はけのよい、シラス台地との相性もよかったため、工業用アルコールを造っても問題ないとの判断がされ、サツマイモを使った焼酎造りが行われるようになったのでした。

そして、島津斉彬は余ったお酒を薩摩の特産品にするため、飲料用にも利用できるように製造法を改良するという命令を合わせて出し、芋焼酎は爆発的に薩摩のなかに広がり、庶民のお酒として定着していったのです。

島津斉彬はまさに芋焼酎の父とよべる存在といえるでしょう。

 

芋焼酎の歴史自体は、たしかにそう長いものではありませんが、歴史を振り返ってみると、そこには、激動の明治維新をめぐるアレコレが隠れています。この意味において、芋焼酎はまさに近代化が生んだ酒といえると思います。

 

そんな歴史に想いをはせながら、芋焼酎のグラスをかたむけるのも一興かもしれません。

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