今回の「酒蔵へ行こう」は、奈良県は奈良市に居を構え、興福寺や春日大社からも徒歩圏内(少し歩きますが)という観光地からほど近い今西清兵衛商店さんにお邪魔してまいりました。

実は、この「酒蔵へ行こう」という企画は、一般の方の酒造見学を行っていない酒蔵様や、販売店を持っていない酒蔵様も取り上げておりまして、「酒蔵へ行こうとは?」という問題を抱えている企画なのですが、今回の今西清兵衛商店様はまさに、「酒蔵へ行こう」という企画に相応しい酒蔵様なのです!

理由は後々明らかにしていくとして、今西清兵衛商店と言えば、「春鹿」という銘柄が代表的です。

「春鹿」でもピンとこないなー、と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、こちらの「春鹿 純米超辛口」を見れば日本酒が好きな方であればピンとくるのではないでしょうか?

黒地に金色の文字で「超辛口」。あぁ、コレと思った方も多いでしょう。

この「超辛口」ですが歴史は長く、33年前の1985年にこのお酒が販売されるようになった時から、すでにこのラベルだったらしいのです。ラベルを見て一目で伝わり、更にインパクトあるラベルを。そんな先代の想いがこのラベルには込められているのです。

現在ではこのようなラベルも一般化していますが、33年前と考えてみれば、かなり先進的だったといっていいでしょう。

「春鹿 純米超辛口」について

一口に「辛口」といっても、どんな味なのか一概には言えないのが難しいところです。

「春鹿 純米超辛口」は、酒米には「五百万石」を使い、日本酒度は+12(現時点)あります。この時点で、日本酒好きの方であれば、「ほう」となることでしょう。一般的に「五百万石」は辛口の酒造りには向いているとされていますし、甘辛の指標とされる日本酒度は+12。酒米も日本酒度もまさに、THE辛口といった印象でしょうか。キレ味も抜群です。

その「春鹿 純米超辛口」ですが、その誕生は前述したように33年前の先代の頃にさかのぼります。

写真はバブル期のジュリアナ東京

先代は当時こう考えたそうです「これからの日本の食卓はどんどん多様化が進んでいくだろう。だから、料理を引き立てる辛口の純米酒を造ろう」と。

当時は、アルコールと糖類を添加した甘口の日本酒が中心でした。そんな中で、アルコール添加したお酒ではなく「純米」で、しかも「超辛口」の酒を造ろうと言ったのです。先進的だったとしかいいようがありません。

そして、辛口にするからにはということで日本酒度を+10以上にし、酵母の発酵限界に挑戦しようと杜氏と話し合って号令をかけたそうです。現在でこそ日本酒度+10以上は時々見かけることが出来ますが、当時は理論上可能といった程度の扱いでした。

こうして誕生した「春鹿 純米超辛口」は1980年代~1990年代の新潟を中心としたいわゆる「淡麗辛口ブーム」・「地酒ブーム」も相俟って広く普及していったのでした。

この「料理を引き立てる酒」という精神は今も強く今西清兵衛商店さんの中に受け継がれているのです。

酒蔵の今

「春鹿 純米超辛口」は今西清兵衛商店さんの根幹ともいえる酒です。つまり、酒蔵の中には「超辛口」というDNAが根差しているのです。

しかし、今西清兵衛商店さんが「辛口」の酒だけを造っているのか、といえばもちろんそんなことはありません。

では、どんなお酒を意識的に造っているのかということをお尋ねしたところ、それは「キレのある酒」とのことでした。

「料理とお酒をより美味しく楽しむことを意識した、キレのあるお酒を目指している」と。

料理に日本酒のマリアージュ。

言葉にすれば簡単ですが、実はかなり難しいことなのです。

筆者は仕事柄、よく酒蔵様とお話しする機会があるのですが、たまに「料理と合わせるならどんな酒がいいか」といった質問をすると、「いや、あんまりマリアージュはしないんだよね」と言われます。

考えてみれば当然のことなのですが、自蔵の酒が生活の一部に組み込まれている以上、我々のように、「今日はあの酒があるから、どこかでツマミを買おう」とはならないのでしょう。日常生活の中に、常に自蔵の日本酒がある訳ですから。

ですが、蔵元の今西清隆氏にお尋ねした所、全く予想外の回答を頂きました。

「マリアージュさせるのは、大変ですが面白いですよ」

話を聞いていくと、東京、大阪、福岡で「春鹿会」というのが開催されていて、その会では春鹿の出品するお酒に合わせて日本料理はもとよりイタリアンや、フレンチ等の料理をコースで提供し、そのコースの一品ずつに合わせた「春鹿」を一緒にサーブしているとか(会員制で会員の紹介がないと参加はできないそうです)。その料理の選定の際は、事前に開催するお店に赴き、実際に提供する予定の料理を試食しお酒と合わせながら、シェフと「春鹿」とのマリアージュする組み合わせを話し合っているそうです。

イベリコ豚のアロマフレスカ風 BBQスタイル バルサミコソースと春鹿 KIOKE-SAKE 旨口四段仕込 純米生原酒のマリアージュ

この会は人気で、予約するのも大変なそう。

そんな「本気」でマリアージュを考えている蔵元は、

「洋食と日本酒を合わせようと思ったら酒の個性とキレが大切なんです」

とおっしゃります。

確かに、「春鹿 純米超辛口」は「辛口」なだけでなく「キレ」もいい。

そして、筆者が取材の前日に飲んだ「春鹿」の2種類(「生酛純米超辛口生原酒 青乃鬼斬」と「純米吟醸 封印酒」)は共にキレ味がよかったことを思い出したのでした。

酒造見学について

最初に述べたように、今西清兵衛商店さんはまさに「酒蔵へ行こう」な酒蔵なのです。

底に鹿があしらってあるオリジナルグラス(500円)買うと、季節限定酒など5種類のお酒の試飲ができ、その1種類、1種類をスタッフの方が解説してくれます。

写真は海外の観光客向けの写真 この裏面は日本語による解説

かなり、お得!

「お得すぎませんか?」と尋ねると、蔵元は少し苦笑いしながら、「正直、赤字ですよ。でもいいんです。うちに来て楽しんでくれて、春鹿のこと、ひいては日本酒のことを好きになってくれれば」

とおっしゃる。

奈良を訪れた際は、是非、今西清兵衛商店さんを訪れてみてはいかがでしょうか。美味しくて、楽しい経験があなたを待っていますよ!

今西清兵衛商店の詳細情報を見る。

今西清兵衛商店の販売店を探す。

酒蔵SHOP きき酒のご案内

清酒「春鹿」醸造元 今西清兵衛商店

奈良市福智院町24-1

■営業時間/9:00~17:00(きき酒の受付は9:00~16:30)
■お休み/お盆、年末年始、イベント開催時
■駐車場/5台(運転をされる方は、きき酒をご遠慮下さい)

酒蔵では、底に鹿が彫られてある手作りのオリジナルグラス(500円)をお買い求めいただくと、5種類のきき酒がお楽しみいただけます。お一人でも大勢でお越しになられても、必ず社員が一人付いてご説明しています。同じ酒蔵でも色んな酒の味があるのだとわかっていただけたら嬉しいですね。
最近の奈良は、大人の修学旅行の地という風に言われています。修学旅行で来られた方が、再び奈良にお越しになられます。奈良町にある春鹿の酒蔵では、お盆と年末年始等以外、お店を開けております。普段は季節限定酒等のきき酒が出来、毎年2月の土・日曜日のみご予約制で酒蔵見学会、9月には酒蔵まつりを行なっております。
京都でも大阪でも味わえないゆっくりと時間が過ぎる奈良の町並みやお店を楽しんで、お帰りいただけるようにと心がけています。

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