はじめに
8月某日、奈良県は御所市に居を構える千代酒造さんに訪問させて頂きました。
千代酒造さんといえば、「篠峯」や「櫛羅」が有名で、一度は飲んだことがある。という方も多いのではないでしょうか?
今回は、そんな千代酒造さんの代表である堺哲也氏に色々な話を聞いて参りました。実は蔵元の堺氏、山梨のワイナリーで五年弱程働いていたそう。近年、ワインのような、と評される日本酒が増えている印象がありますが、まさかワイン出身の人が造る日本酒があったとは!と驚かされました。
櫛羅と篠峯
千代酒造は、元々は「千代」というお酒を少量造っていたそうですが、「櫛羅」(くじら)を23年前(1995年)から、「篠峯」を17年~18年前(2000年~2001年)から造り始めたそう。
取材にお伺いする際は、取材する内容を決めてからある程度の下調べをしていくものなのです。ですから、最初はこの「櫛羅」(くじら)というちょっと変わった名前のことを聞こうと思っていたのですが、住所を見ると「奈良県御所(ごせ)市大字櫛羅(くじら)621番地」とあり、ああ単に地名から付けたのね。
ということで、質問事項からも省いていたのですが、実際にお会いして「櫛羅」の特徴を聞いてみると、「うちは自社栽培で山田錦を造っているんですけど、「櫛羅」はその自社栽培の山田錦だけで造っているんです」とのことでした。
田んぼはほぼ全て酒蔵から歩ける距離にありました。つまりは、「櫛羅」という銘柄は単に地元の地名からとった名前という訳ではなく、「櫛羅」という地で育った山田錦を、「櫛羅」という地の水を使い、「櫛羅」という地で造った「櫛羅」ということになります。まさに、「櫛羅」!ですね(ちなみに、自社栽培を始めたのは24年前(1994年)からとのこと)。
「篠峯」に関しては、千代酒造さんからも見ることの出来る「葛城山」の別名が「篠峯」なんだそう。
「篠峯」は山田錦だけでなく、様々な酒米を用い造られているのです。季節感や様々な味を楽しむことができることが最大の特徴でしょう。
ワイン造りと日本酒造り
前述したように、蔵元である堺氏は結婚して千代酒造に入るまでは、山梨のワイナリーで働いていたとのことなのですが、筆者はワインのことを殆ど知らないので、「ワインと日本酒の違い」について尋ねました。
堺氏は苦笑いしながら、「幾つかあるけど、ワインは水を使わないでも造れるけど、日本酒は水がないと造れない」ということをまず上げられました。
確かに、ヨーロッパなどでは、地域によって、水がワインより高いといった話を聞いたことがあります。日本は雨量が多い国ですので、なかなかピンとはきませんね。
この部屋の中に井戸があるとのこと
他にもお話を伺っていくと、精米という工程が大きく違うのではないかということでした。元々、ワインと日本酒では、ブドウとお米ですから原材料が根本的に違うので、一概に言うことができないかもしれません。が、それでも「磨く」というのが「最大の違い」ではないか、とのことでした。
確かに、ブドウを磨くというと、全くイメージできませんね。
「うちは、低精米のお酒も造っているのですが、今は77%の磨きで造っています。77%はなんとなくラッキーな感じがするからと、80%にすると、独特な匂いが気になってしまうんですよ。本当、磨きに正解は見えてこないですね」
と堺氏は仰る。
考えてみれば当然のことなのですが、酒米は品種によっても違いがありますし、例え同じ品種であっても、作られた場所や年によって味は変わってくる。いざお酒を造ってみて、「あぁもっと磨いてもよかったかな」と思うこともあるんだとか。
私たちには測り知ることの出来ない領域の話ですね。
「本当は酒米に触れた瞬間とか、見た瞬間にこれくらい磨くといいなとか、わかればいいんですけど、残念ながらまだ僕には分からないな」
と苦笑いしながら、仰る。
それができたら、人間離れが過ぎるのでは?等と、思いつつお話を終えるのでした。
いかがでしたでしょうか?
考えてみると、千代酒造さんの「櫛羅」はワインのテロワール(ワインなどの品種における、生育地の地理、地勢、気候による特徴を指すフランス語)の発想が感じられ、逆に「篠峯」からは、全国の酒米でよりよいお酒を造ろうとする日本酒らしさが感じられますね。
ワイナリーで働かれていた方が日本酒を造るようになったからこそ、できた二つの銘柄なのかもしれませんね。
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