去る2018年4月某日、茨城県古河市の「青木酒造」にお邪魔しました。
「青木酒造」は天保2年(1831年)に設立され、ご当地の方々に愛される伝統的な酒蔵です。現在、2013年から2017年の4年連続で全国新酒鑑評会の金賞を受賞しており、お酒愛好家のあいだで注目度が高まっています。
ちなみに「全国新酒鑑評会」は、独立行政法人の「酒類総合研究所」が行っている鑑評会です。酒類総合研究所の前身である「醸造試験所」が明治37年に大蔵省に設置され、7年後の明治44年、はじめての全国新酒鑑評会が開催されました。「全国新酒鑑評会」は最も古く、最も規模の大きい審査ですから、最も権威ある清酒鑑評会といって差し支えありません。
昨年の出品点数は860点。優秀なお酒である入賞酒は437点。最高評価の金賞種は入賞酒のなかから242点ですから、一見、競争率がそれほど高くなく見えますが、近年は全国的に優秀なお酒が増えまして、有名銘柄でも金賞に届かないことは珍しくなく、連続受賞は困難です。
杜氏について
昨今、蔵の酒造りに関して、杜氏の後継者不足や、季節雇用に伴う手間の簡素化といった様々な理由で、蔵元(オーナー)杜氏や社員杜氏といった、自社に酒造りの責任者が常駐するところが増えています。
ですが青木酒造は昔ながらの、造りの季節に杜氏を招いての酒造りを続けています。2013年からは、前任の杜氏の方が高齢で退職され、南部杜氏の箭内(やない)和広さんが引き継がれました。
箭内和弘さんは宮泉銘醸(福島)で1990年より修行を重ね、2002年には現場を取り仕切るようになったそうです。そして2008年にはいまや有名ブランドである「寫楽」の立ち上げにも関わっていました(前年の2007年に、今は廃業された東山酒造から、宮泉銘醸が「寫楽」の銘を引き継いだとのことです)。
さて、前置きが長くなってしまいましたが、この日は青木滋延社長の娘さんで、専務の青木知佐さんにお話をお聞きしました。
インタビュー
―本日はお忙しいところ、お時間いただきましてありがとうございます。知佐さんは2014年より、蔵にお戻りになったとうかがいました。
はい。えーっと、2013,14。自分が早うまれなので年数がごちゃっとしがちですが、2014年に戻りました(笑い)。
―蔵元の子どもとなると、やはりお酒に興味をもつのが早くなるものですか?
いいえ。自分のお家が蔵だからか、かえって関心が湧かなかったですね。蔵に戻るぞ、ということで、本格的に酒蔵に勤める同業の人と飲み比べを始めました。そこではじめて日本酒の美味しさに気づきましたね。たくさん飲み比べました。
―2013年から、4年連続で新酒鑑評会の金賞受賞おめでとうございます。お酒好きとしては、箭内杜氏がどんな方なのか気になります。
箭内さんは前任杜氏が高齢のため、後任の方を探していた際に、たまたまタイミングが合って来ていただけました。
幸い箭内さんにもひたち錦をはじめとする茨城の米や、茨城という環境ゆえの蔵のクセなどをコントロールしてくれて、蔵としても全力で箭内さんの酒造りをサポートしていきたいと考えています。
箭内さんはもちろん職人さんらしくもありますが、とても気さくな方で、一緒に楽しみながら酒造りに取り組んでいます。
―新酒鑑評会だけでなく、「御慶事純米吟醸 ひたち錦」では、インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)のSAKE部門(※脚注)でも、最高位のトロフィー賞を受賞されていました。米・酵母とも地元産のお酒での受賞は快挙ですね。
ありがとうございます。地元産のもので評価されたことは大変うれしいのですが、実はこの年のグランプリは全ての蔵が地元のお米で造っていました。
全国的な動きとして、その土地でしか造れないお酒、ということで地元産にこだわる流れがあります。私自身、旅行先では、土地のものを楽しみたいと思いますし、飲み比べも楽しくなりますよね。
お客さんの意識はもちろん、蔵元の意識も土地にこだわるように変わってきていますね。
―確かに、その土地のものは特別ですね。ただ、新しく土地固有のお米をつかうと、造る際に苦労が多いと耳にします。
そうですね。たとえば私たちは「ひたち錦」というお米をつかっていますが、このお米は最初、硬くて味が出にくく、扱いにくいという評価がありました。しかし今では、色々な賞の受賞もそうですし、実績がでてきて、見直されています。
―今年あたらしくチャレンジされるお酒はありますか?
食用米の「一番星」をつかった辛口のお酒を5月から販売します。私たちの蔵の特色は、ふくよかな酒質なので、ふくよかさを活かして、米感があってしっかりキレるお酒を造りました。ドライな辛口とはかわった味わいで楽しめると思いますよ。
―近い将来、青木酒造が達成したい目標をお聞かせ願えますか?
最近注目して頂けていてありがたいのですが、「御慶事」の名前がもっと広く知られて、地元の人が誇りに思ってもらえるようになりたいですね。製造の量を増やすという事よりも、いつ飲んでも美味しいと思って頂けるような品質のお酒を造っていきたいと思っています。
古河市は観光地というわけではないですし、御慶事をきっかけに古河に来ていただけるお客さんがうまれたりしたらとても嬉しいです。御慶事を飲んで、蔵に行ってみたいなと思われるお酒を造って、地元と一緒に盛り上がっていきたいと考えています。
―本日はお忙しいなか、ありがとうございました。
いかがでしたでしょうか?
青木酒造ではこれからも、名実ともに、地に足のついた酒造りをつづけると同時に、若いお客さんにも喜んでもらえるよう、様々な企画が進行しているとのことです。
さて次回、そんな青木酒造「御慶事」を2種類、実際に味わってみました体験レポートをお送りする予定です。ぜひ、お楽しみに。
※設立から33年を迎えるインターナショナル・ワイン・チャレンジは、世界最大規模・最高権威ワイン・コンペティションで、世界でもっとも厳しい審査を行うことで知られています。SAKE部門は2007年より始まり、2016年は10周年にあたるメモリアルイヤーとなっています。
2016年は1282アイテムが出品され、国内外の審査員50名によって世界基準で評価され、そのうちの5%という狭き門を潜りぬけた日本酒がゴールドメダルの称号を手にできます。そしてさらに、その中でも優れているアイテムの中で各部門より一銘柄トロフィーが選ばれます。
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