鹿児島県は奄美大島の「山田酒造」さんにお邪魔した。

 

山田酒造について

 

「山田酒造」さんは長雲山麓の麓にあり、緑色の屋根が森の中に溶け込むような雰囲気がある酒蔵だ。

 

山田酒造の「長雲」という名前は、長雲山麓の峠、長雲峠から名付けられている。トンネルや道路が整備された昨今では、もう使う人も殆どいないらしいが、「長雲節」という島唄には、「恋しい人がいれば峠の道のりも辛くない」と謡われている。かつての奄美では「長雲」の名前がポピュラーなものだったのだ。

「あまみ長雲30度」

「一本一本心を込めて、家族で造る小さな蔵」という言葉がよく使われている。代表の山田氏は、丁寧に造ったお酒だから、「造るのも売るのも、自分たちの目の届く範囲で」行うとおっしゃる。

この「長雲」は、流通の殆どが(八割程度)問屋を通さずに、都会の小売店に卸されている。知っている所だけに、目の届く範囲だけに卸す、まさに、丁寧に造られ丁寧に扱われているお酒なのだと思う。

 

酒蔵訪問

一歩、蔵の中に入れば、仕込みの時期が終わっているにも関わらず、黒糖の甘い香りがぷ~んと漂ってくる。

「黒糖の甘くていい香りがしますね」と言うと、案内してくれていた三代目の山田隆博さんが、

「もう慣れちゃってて、僕たちにはわからないけどね(笑)」

と答えてくれた。毎日ここで働いているんだから、さもありなん。等とぼんやり、考えていると、甕を発見。

一次仕込みで使われる甕

「雨の日が続いたりすると、大量の地下水で、この埋め込まれた甕が浮き上がることもあるんです」そう説明して頂いた。酒造りには水が欠かせない。この地は、そんな水が豊富な場所なのだそうだ。

 

続いてタンクに移動する。

生憎と、訪問させて頂いた時期が、既に酒造りが終わっている時期だったので、「余り見せて面白いものはないけど」といって案内してくれたタンクのフタを開けると、更に芳ばしい黒糖の香りが漂ってくる。

案内してくれた代表の山田隆博氏

「泡盛と同じ仕次ぎ法(注)で通常の長雲でも2年以上タンクで寝かせてから瓶詰めしています」

 

やっぱり黒糖焼酎は、泡盛との関係が深いんだな~。等と、芳ばしい黒糖の香りを楽しみながら思った、そんな楽しい酒造見学だった。

 

観光で酒造見学したい場合には、予約が必要とのことなので、注意されたし。

 

(注)仕次ぎ法とは、熟成させたお酒に新しいお酒を足していく方法を指す。例えば、5年貯蔵、4年貯蔵、3年貯蔵のお酒があるとする。5年貯蔵のお酒を瓶詰めすると、5年貯蔵のお酒が減る。その減った5年貯蔵のお酒に4年貯蔵のお酒を注ぎ足し、減った4年貯蔵には3年貯蔵の酒をたしていくという方法。

 

山田酒造の挑戦

山田酒造は大きい酒蔵ではない。

しかし、その酒は美味い。

「長雲」は当然美味いし、「長雲 一番橋」はTHE黒糖焼酎という程香り豊かで、グラスに注げば、黒糖そのものの匂いを嗅いでいるのではないか?と錯覚するほど濃密で芳ばしい香りが漂ってくる。

 

そして、この山田酒造という酒蔵は、小さいから、ということを1ミリも言い訳にしないのだ。

美味い酒を造ればいい。代表の隆博さんのお話を伺っていると、そんな想いが見えてくるような気がした。

 

そんな、山田酒造の挑戦が今年、とうとう形になる。

「山田川」(やまだごう)

「山田川」の特徴を簡潔に言えば、「山田酒造」のある龍郷町で造られたサトウキビと米を使って造っている。ということに尽きる。

現在流通している「山田川」は、自社栽培したサトウキビで黒糖を作り、その黒糖を使い焼酎を造っているのだ。

それだけでも、とてもすごいことなのだと思う(実際、奄美黒糖焼酎で使われている黒糖は、殆どが沖縄県産で海外産の黒糖を使っている例もしばしば)。しかし、更に「山田酒造」は麹米の自社栽培にまで乗り出した。

そもそも、奄美大島は米が余りとれない地域でもある。この「山田酒造」のある龍郷町は唯一お米がとれる場所ともいわれている。そういった、環境という幸運はあるのだろうが、冷静に考えれば、思ってもやるか?と思うのだ。

 

「原料から100%自社産の黒糖焼酎を造る」

言葉にすれば、簡単だ。が、これほど難しいものはない。

多くの働き手を抱える大きい蔵ならまだしも、家族で酒造りをしている、決して大きいとは言えない蔵で、そんな挑戦を行っうというのだから当然だ。

 

そんな、100%自社生産の黒糖焼酎「山田川」は今年の11月に発売される。米も黒糖も自社栽培だから、そもそも出せる量が限られていて限定で600本の販売になるとのことだった。

11月は血を見るのかな・・・話を聞いた時ぼんやりそんなことを思ったのであった。

 

こぼれ話

きょらじま」という15度の山田酒造のお酒がある。最近、20度程度で焼酎を造る流れがあるから、山田酒造さんもその流れに乗ったのかな?なんて、思って聞いたら、「10年以上前から造っているけど、イベントとかで他の酒蔵さんからも言われるんです」といって、笑っていた。自分の不勉強を恥じるばかりである。

 

そんな、「きょらじま」のおすすめの飲み方を聞いた所、夏なら瓶ごと冷やしてストレートかロックで。冬は、そのまま燗付けて飲むといい、と教えて頂いた。

 

考えてみれば、15度なんだからお湯割りだと薄くなり過ぎる。そもそも燗酒でいいんだ!と思うのであった。直接温めるという発想のなかった私には目から鱗である。

皆様も機会があれば是非、楽しんでみて下さい。

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