奄美大島は「町田酒造」さんにお邪魔して参りました。

町田酒造について

「町田酒造」は、昭和58年(1983)に造り手の高齢化により後継者のいなかった「石原酒造」から、酒類製造免許を譲り受ける形でその歴史をスタートさせたのでした。

現在の龍郷町大勝(たつごうまちおおがち)に居を構えるようになったのは平成元年のこと。最新の設備を揃え、酒造りをスタートさせました。

 

町田酒造は地域を活性化させるために酒造りをはじめたとのことで、その観点から代表銘柄「里の曙」が生まれたのでした。その「里の曙」の意味は『黒糖焼酎の製造と販売を通し、奄美の里に夜明けをもたらしたい』というものです。ゆえに現在では、黒糖焼酎の酒蔵の中でも、屈指の流通量と規模を誇っている町田酒造の理念には、「伝えたい奄美がある」というキャッチコピーが残っています。

町田酒造の酒造りについて

「町田酒造のお酒の特徴は?」と筆者が聞かれたなら、「貯蔵年数」と答えます。代表銘柄である「里の曙」の貯蔵年数は3年。焼酎好きなら分かって頂けると思うのですが、スーパーやコンビニで販売されている焼酎で、3年も貯蔵しているものは珍しいのです。一般的な蔵などでは、通常の3年物は高級酒とされるからです。そんな「里の曙」の味わいは、スッキリしていていながら芳醇。非常にコストパフォーマンスの高い庶民のお酒といえるでしょう。

写真は「里の曙

「町田酒造のお酒の特徴は?」先程と同じ問いを今回、酒蔵の方に尋ねてみると、「酒造りの際の黒糖の使用量」とのことでした。

 

通常の黒糖焼酎の蔵は、米1に対して黒糖1.5といった量で造られています(黒糖焼酎を造る際の麹づくりには通常米が用いられる。詳しくは「黒糖焼酎って何?」をご覧ください)。ですが、町田酒造の「里の曙」では、米1に対して黒糖が2.5も使用されているのです。

写真は町田酒造の酒造りに使う黒糖のブロック

 

黒糖が多ければ多いほど香りが豊かになります。とのことでしたが、案内してくれた方は、「他の黒糖焼酎を飲めばうちのより黒糖が少なくても、香りが強いと思われる酒もあると思います。でも、それも込みで黒糖焼酎を楽しんでもらいたい」と仰る。なんて懐の深い酒蔵なのでしょうか。

実際に話だけ聞けば、さぞ濃厚な酒なのだろうな。と思われる方もいるかもしれませんが、「里の曙」の味わいはむしろスッキリしていて、爽やかな印象です。

理由は、蒸留の際の方法にあります。「里の曙」は、通常の常圧蒸留ではなく、減圧蒸留で造られているからです。それがスッキリとした味の秘密なのです(もちろん、他にも理由はあるのですが)。

減圧蒸留器と常圧蒸留器

さて、この減圧蒸留と常圧蒸留についてですが、違いを簡単に説明するとすれば、「常圧」「減圧」の名前からもわかるように、蒸留器内でかけられる「気圧」の違いにあります。説明すると、少々長い話になるので割愛しますが、簡単に言えば、蒸留器内でかけられる「気圧」が強ければクセのある味わいになり、「気圧」が弱ければすっきりとした味わいになるのです。

2000年代に起きた、いわゆる焼酎ブームはこの「減圧蒸留」のブームだったと言ってもいいかもしれません。この時、人気の出た銘柄の殆どは「減圧蒸留」だったからです。

 

さて、なぜ「減圧」や「常圧」という小難しい話をわざわざしたのかと言えば、「里の曙」という酒が「減圧蒸留」で造られているからという理由だけではありません。

実はこの町田酒造、減圧蒸留を黒糖焼酎において初めて導入した酒蔵だからです。そういった意味で言っても、「里の曙」は黒糖焼酎においても革新的な、まさに「曙」のような酒だったのかもしれません。

 

ちなみにですが、町田酒造には「里の曙」と殆ど同じ原料、製法、熟成期間で造られ、違いをあげれば、蒸留の際に常圧蒸留で造られたという「瑞祥」という酒があります。こちらは、そこまで出回っていないので、手に入れるのは簡単ではありませんが、「里の曙」と「瑞祥」の二つを並べて、違いを楽しんでみるのも面白いかもしれません。

写真は「瑞祥

熟成酒について

町田酒造はとても大きい酒蔵です。

そのためか、通常の黒糖焼酎の酒蔵とくらべていろいろな実験的なことをおこなっています。

これは、町田酒造の樽熟成につかわれている樽の一部です。が、実は通常黒糖焼酎の熟成は樫樽でおこなわれます。ですが、町田酒造ではウイスキーのようにシェリー樽やコニャックの樽などでの熟成も行っているらしいのです。

筆者は新たな黒糖焼酎の可能性に身震いいたしました。

 

焼酎は樽熟成を行うことで、多様な味わい、美味しさが生まれていくと確信しておりますが、現状、焼酎に色を付けることは余り許されていません。

写真は町田酒造の「一村」黒糖焼酎はこの色が限界とされている

現状、樽熟成を行っている酒蔵は、タンク熟成の酒などとブレンドすることで、色を薄めて瓶詰めしています。町田酒造のシェリー樽のシングルバレル(ウイスキー用語で樽を示している単一の樽ということ)まるで、ウイスキーのようだが、そんな焼酎が生まれた時、焼酎はもっと面白くなる。筆者は、そんな祈りにも似たことを思っています。

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