今回の酒蔵へ行こうは青森県上北郡おいらせ町にあります、桃川株式会社にお邪魔しました。

桃川

「桃川」は県内35、6%のシェアを誇る大変大きな酒造メーカーでして、私がこれまで訪れた酒蔵のなかでも1,2を争う規模になります。
地元の方とお話ししていて、酒蔵見学に来たんですよ、といえば、真っ先に「桃川さん?」と問われるほど、有名な観光コースでもあります。

写真は、本社ビル横の物流部に架けられた「いい酒は朝が知っている」のキャッチコピー。
一日働いて疲れた後、一杯飲んで眠りにつく。目が覚めて、「よし、頑張るぞ」という気持ちになるためには、寝る前のその一杯が良い酒じゃないといけない。まずい酒を飲んでもやる気は出ない。生きる活力になる酒を造るんだ。という気持ちが込められています。

「桃川」の創業は1889年と比較的新しい酒蔵にになりますが、もともと酒造りに向いた土地柄らしく、記録をさかのぼると江戸時代から、この地で酒造が行われていたことが確認できます。その後、戦中戦後の合併、分離を経て、1985年に現在の桃川株式会社となりました。

それでは早速、本社ビルから工場見学に参ります。

まず本社玄関で目に付くのが、この超ビッグな杉玉。毎年12月に交換していて、常設では全国最大のサイズ。軽トラ7台分の葉を刈り集め、直径は2メートル、作り立てで6~700キロの重量になります(水が抜けると500キロくらい)。
年々気合が乗ってきて大型化し、玄関に入らないために、玄関先で端を刈って搬入しているそうです。「桃川」のお酒といえば、「桃川」や「ねぶた」が有名ですが、実は「杉玉」という銘柄もありまして、個人的には飲み応え、充実感に優れる「杉玉」が好みです。

本社隣の工場への道すがら、お話をお伺いしながら移動します。
「桃川」ほど生産量が多い酒蔵になりますと、流石に大型の機材の導入などがすすんでいますが、吟醸酒以上の酒を美味しく造るにはどうしても手作業が欠かせないということで、造りを大きく二つに分けているそうです。

米が水を吸う加減などにもこだわると、木製品やプラスチック、金属製品の使い分けが必要になります。すると結局のところ、良い酒を造るには昔ながらの道具、職人の手作業が欠かせません。
ちょっとマニアックなところだと、毎年欠かさず、山廃(やまはい)仕込みという古風な技術でのお酒造りを行うそうです。商品化しない年もあるのですが、技術の伝承、進歩のために行うそうです。

お邪魔した季節は、お酒造りの時期ではないので使用していない部屋が多いです。桃川では吟醸造りの時期以外では見学を受け付けているそうですので、やはり11月や12月に訪れたいところですね。
ただ、今回は時間の都合もあり拝見いたしませんでしたが、通常だとビデオで造りの様子を見ることができるそうです。また、試飲に関しては今回のようなオフシーズンでもばっちりできます(重要)。

「階段が急なので気を付けてくださいね」
と言われ、実際に急な木造の階段を上ります。

あれ?これはひょっとして、工場の中に旧来の酒蔵がすっぽり包まれているのでは?


「増築を繰り返してごちゃごちゃしているとも言えます」
いえいえ。個人的には大手メーカーの顔と、こだわりの地酒を醸す酒蔵の、二つの顔をもつ桃川らしい趣きを感じます。

毎度おなじみ(?)製麹室の様子も少し変わっていて、写真を2枚、較べてみます。

1枚目は、フネもあり、よく見る製麹室です。造りのオフシーズンにお邪魔すると、片付いてないからあんまり見られたくないなー、と蔵人にご迷惑をお掛けしてしまう、いつもの麹室です。
2枚目は、どん、と大量に処理できる機械です。うーん、実際に動いているところが見たい。こちらが普通酒用の麹室です。
製麹に関しても、やはり手作業と機械だと変わってくるところがあるので、つかいわけているんですね。

それでは最後に瓶詰の様子をご覧ください。

でかい。写真一枚に収まりません。


写真右端にオレンジのカバーが見切れていますが、ここでは瓶に何かが混入する可能性のある個所全てが、カバーで区切られています。
驚いたのは、アルコール臭さがないことですね。本当に気密性が高いのだろうと感心しました。
クリーンシートの導入の他にも、床をリノリウム張りにしたり、瓶火入れ(殺菌)の設備をより良いものを導入したりしています。これらはコストがかかっても、安全であったり、美味しさを求めるために、ケチらず投資しているそうです。
一般論として、工場の稼働に関してはコストカットが重視されがちですし、実際に経営的にも重要ではあります。ですが、毎年のように食品業界やお酒業界で問題が起こっており、桃川では絶対にそういうことのないように、との考えだそうです。

見学を一通り終えると、試飲ができます。

こんなに飲んだら味の違いどころか、呂律が怪しくなってしまいます。
唎酒らしく、口に含んだら捨ててもいいですよ、とのことですが、無理です。貧乏性でして。

どのお酒も美味しいのですが、個性の違いが豊かで、何を買って帰ろうか非常に悩みます。例えば「ねぶた」は火祭りですから、軽やかでキレの良い、淡いお酒といえます。
「にごり原酒」は桃川では古くからやっている自信作で、甘みがあるかわりに酸度も高いので、くどさを感じさせずに強度のある、トータルバランスに優れたお酒になっています。
気軽に飲めるリキュール「雪りんご」ですら、リンゴ酢が活きて旨いですからね。カクテルにしたら美味しそう、と思ったら既に「にごり原酒」とのカクテルが商品化(「にごり酒に恋したりんご」)されている隙の無さ。これも旨い。

それでも辛口で美味しい「純米 桃川」か、満足感のある「吟醸純米 杉玉」かな、と考えていると、とんでもないお酒が出てきました。

「大吟醸雫酒 桃川」。こちらは新酒鑑評会にて金賞受賞の出展酒。通常、出展するお酒は販売しないのでは?と伺うと、桃川でも当然少量仕込みなので、冬のギフトシーズンと、春のみの期間限定、数量限定の販売だそうです。
新酒鑑評会向けのお酒なので大吟醸酒なのかな?と思いましたが、桃川では、どうやら大吟醸酒を商品化した(恐らく)最初の蔵らしく、現在でも純米大吟醸酒よりも、大吟醸酒を格上に位置付けています。
これはもう、抜群に旨いですね。立ち昇る香りは当然素晴らしい。桃川らしい辛さあり、とろりと舌に残る旨味・甘みあり、トータルバランスも別格です。

結局のところ、先回りして純米のねぶたをお土産に頂いてしまい、流石に観光で有名な酒蔵は隙がないなと感心しながら帰途につきました。

酒蔵情報

桃川株式会社
公式HP(酒蔵見学は公式HPで受け付けております)

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